2026/6/7
「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか?
著者: 今井 むつみ
コミュニケーションの本質は
スキーマ(認識)の違いを認め、歩み寄ること
なぜ「伝わらない」のか?認知科学が教えるコミュニケーションの正体
「一生懸命説明しているのに、相手が全然理解してくれない」
そんなストレスを感じたことはありませんか?実は、コミュニケーションがうまくいかない原因は「言い方」ではなく、人間特有の 「読み方(認知)」 にあるのです。
1. 私たちは「自分だけのフィルター(スキーマ)」で世界を見ている
人は皆、これまでの経験や環境によって作られた 「スキーマ」 と呼ばれる知識の枠組みを持っています。
- フィルターを通した理解:
相手の話はすべて、このスキーマというフィルターを通して解釈されます。 - 当たり前の違い:
同じものを見ても、人によって解釈が異なるのは、持っているスキーマが違うからです。 - 思い込みの衝突:
相手に正しく理解してもらうということは、相手の「思い込みの塊」と対峙することでもあります。
2. 記憶とバイアスという厄介な壁
「言った・言わない」のトラブルが絶えないのは、人間の認知能力がそもそもあやふやだからです。
- 記憶のすり替え:
記憶は願望や感情、スキーマによって簡単に操作され、悪気がなくても「自分にとっての事実」が作り上げられてしまいます。 - 都合のいい解釈:
人は自分に合う情報だけをピックアップし、見たくないものはブロックする傾向(認知バイアス)があります。 - 流暢性の罠:
内容の正しさよりも、「スラスラと分かりやすく話されること」を信じてしまうバイアスも存在します。
3. 「感情」が論理を支配する
「感情を仕事に持ち込むな」と言われますが、認知科学的には不可能です。
- 好き嫌いが先:
人はまず「好きか嫌いか」という感情で判断し、その後に論理的な理由を後付けしています。 - 曖昧な言葉への甘え:
「確認してください」といった曖昧な言葉は、責任の押し付けや甘えを生む原因になります。
4. 達人への道:直感と「大局観」
コミュニケーションや仕事の「達人」と呼ばれる人々は、優れた 直感 を持っています。
- 身体化された知識:
直感は天から降ってくるものではなく、長期間の訓練によって知識が身体化し、考えなくても頭と体が連動するようになった状態です。 - 大局観の獲得:
経験で練り上げられた究極のスキーマを「大局観」と呼びます。 - AI時代に求められる能力:
生成AIは便利ですが、答えを出すプロセスが人間とは異なるため、AIに頼るだけでは「生きた知識」や「直感」は身につきません。
まとめ:歩み寄るための努力こそが本質
言葉を尽くしても、相手に100%理解されることはありません。大切なのは、 「自分と相手のスキーマは違う」という前提に立つこと です。
相手が何を大切にし、どう成長したいのかを考える。その歩み寄りの努力こそが、単なる情報伝達を超えた「真のコミュニケーション」への第一歩となります。
